ヨガによる複雑性トラウマの治癒
【ヨガによる複雑性トラウマ治療に関する論文の紹介】
ヨガによる複雑性PTSDの治療効果に関する論文を翻訳しました。論文の著者は「身体はトラウマを記録する」の著者であるベッセル・ヴァン・デア・コーク博士のグループです。


Bessel Van der Kolk
これら2つの論文は、最初に「PTSDの補助的な治療法としてのヨガ:ランダム化比較試験」が書かれ、その後に、同じ被験者を対象にして「女性の慢性PTSDに対するヨガの効果:長期フォローアップ研究」が書かれました。
本研究は、治療効果の見られない慢性的なPTSDを患う女性を対象に、10週間、週1回のヨガプログラムを行い、その結果、ヨガプログラムは支持的セラピーに比較して有意にPTSDの症状を緩和し、その効果量は十分に研究された精神療法および薬理学的手法と同等であることを示しました。本論文によると、ヨガによる複雑性トラウマの治癒効果は、コーエンのd=1.07で(0.2=小さい効果、0.5=中程度の効果、0.8=大きい効果)、かなり高いものでした。
フォローアップ研究では、ヨガを継続的に行った頻度は、PTSD症状とうつ病の重症度の大幅な低下に有意に関連性が認められ、より頻繁にヨガを実践することにより、より大きな⾧期的効果が期待できることが示されました。
本論文の被験者は、子供時代に始まった身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、家庭内暴力などの長期のトラウマ体験にさらされた体験を持ち、難治性の慢性PTSDを患った女性のみを対象としています。彼女らにはうつ症状、不安症、感情のコントロールの問題など併存疾患が認められ、肥満症、心臓病、慢性疼痛などの健康問題との関連も認められました。また、被験者グループは、トラウマに焦点を当てた心理療法を少なくとも3年間受けていたにもかかわらず、トラウマ性ストレスに起因する持続的なメンタルヘルスの問題を抱えており、本研究によってヨガに取り組む前は、症状はほとんど緩和していませんでした。この点において、既存の治療法と比較したときのヨガの有用性が示されています。
【トラウマ治療の現状とヨガの優位性】
一般にトラウマ治療は容易ではなく、一生、心の傷を抱えながら生きる人も少なくありません。特に幼少期の虐待やネグレクトなど過酷な家庭環境で育った人は、複雑性トラウマと診断されることが多く、米国のACE(逆境的小児期体験)研究によると、幼少期のトラウマ体験が、さまざまな健康リスクを増加させることが分かっています。
現在、日本においてトラウマ治療の主流は、EMDR(眼球運動による脱感作および再処理法)や認知行動療法などを用いた認知的アプローチと、薬剤を用いた薬理的アプローチが主流であり、身体からのアプローチは稀で、あまり知られていないと思います。身体的実践であるヨガは、スポーツジムなどで広く行われており、比較的安価で、誰でも取り組みやすい手法です。セラピストに高いカウンセリング費用を支払う必要もなく、薬剤の長期使用による副作用の危険や、暴露による再トラウマ化といったリスクもありません。
トラウマフォーカスト認知行動療法などの認知的アプローチでは、辛いトラウマ体験への暴露の手順が含まれますが、これは患者の心理的負担か大きく、治療からの離脱率を高めるだけでなく、治療効果も限定的であり、逆に再トラウマ化して症状を悪化させることもあります。この点、ヨガは特定のトラウマ体験への暴露や認知の再構成といった手順を含まず、アーサナ、呼吸、瞑想といった身体的なアプローチのみなので、経済的負担だけでなく、心理的負担も小さくてすみます。
【治療効果の作用機序】
《神経生理学的解釈》
本論文において、ヨガの高い治療効果の理由として、深い呼吸によって心拍変動や迷走神経などの自律神経系の機能に影響を与えること、ヨガのポーズを繰り返し練習することによって、身体の内的な感覚に気付き、受け入れ、対処し、再解釈することができるようになり、感情の制御能力が向上することが挙げられています。
また、瞑想の効果については広範に研究されており、瞑想が、不安症、うつ症状、慢性痛、免疫機能、血圧、コルチゾール値など数々の心因性のストレス関連の症状にプラスの影響を与えることが分かっています。
ポリヴェーガル理論でいえば、ヨガは心身の凍り付きを起こす背側迷走神経の活動を鎮静化させ、社会交流を促す腹側迷走神経を活性化すると解釈できます。ヨガのリラックス効果が腹側迷走神経に安心・安全のシグナルを送り、治療効果が生じると考えることもできるでしょう。
《エネルギー論的解釈》
現代医療は、意識とは脳内の化学反応の結果起こる現象であり、薬物によって脳内伝達物質を操作することで精神病を治療するという発想に立脚しており、意識がエネルギーであり、エネルギーに働きかけることで思考や感情が変化するという発想はありません。
エネルギー論的視点に立てば、トラウマとは辛い体験によって凍り付いてしまった感情エネルギーであり、この凍り付いたしまったエネルギーが、身体のエネルギーの流れを滞らせ、波動を引き下げ、不快感やネガティブな感情、ネガティブな投影の原因となります。ヨガの呼吸法やアーサナは、呼吸や身体的動きによって全身のエネルギーの動きを活性化し、感情の浄化を引き起こすと解釈できます。このエネルギーの浄化によって記憶に付着した負の感情が薄れ、カウンセリングによって意図的に非機能的な認知を矯正しなくとも、自然に前向きな認知に変化することになります。